10月30日の読売新聞に「小中不登校35万人」というタイトルで3面全部に記事が掲載されていた。12年連続の増加、5年前から倍近い増加になったという。欠席日数が90日以上の児童・生徒が19万1958人で過去最多だという。
記事では、不登校の増加について、二つの要因を指摘している。一つは、「無理に学校に行かなくてもよい」という認識が社会に浸透したこと。もう一つは、朝起きられないと言った不調や、障がいを持つなどの特別な支援が必要な子どもに対し、学校が早期に組織的な対応ができなかったことを指摘している。こういう分析で良いのだろうかと思う。
一つ目の要因であるが、確かに子どもが「学校に行きたくない」と言っているのに、無理に行かせようとすると事態はより深刻になるのは当然だ。子どもは、学校生活の中で日々発生する人間関係に、心を消耗させているのだから、無理に行かせるようなことはできない。私の子どもも小1から不登校になった。無理に学校に行かせようとしても、どこにこんな力があるのかと思うほど、梃子でも動かなかった。ただし、「無理に学校に行かせない」というのは、対処療法でしかなく、緊急避難なのだ。問題は、なぜ学校に行きたくないと思う子どもがこれほど多いのかということである。
欧米の学校は、教室を移動して授業を受けるそうだが、日本の学校では、クラスを基本として一日教室で過ごすのが通常だ。そうすると、日本の子どもたちは、学校に行くと毎日毎日、固定した人間関係の中に置かれることになる。そのような人間関係の中で、何か支障が生じることになれば、なかなかその人間関係から抜け出すのは難しいというのが、定説だ。
しかし、考えてみれば、この教育制度は明治から大正・昭和・平成・令和と続いてきた制度である。日本は海外に比べて過去から不登校が多いわけではない。そうすれば、この不登校の増加の根本的な要因は何に求めるべきなのだろうか。私は、少子化にあると考えている。
 少子化ということは、子どものいる家庭に一人っ子の家庭が圧倒的に多いという事を示している。つまり、親の庇護の下でずっと幼少期から過ごす子どもが多いという事だ。そうすると、大人の人間関係の感覚の下で育つことになる。大人は、相手に対してどのように接すれば良いかというスキルを身につけている。相手を不用意に傷つけたり、強要したり、無視したりしない。このようなまるで「温室」の中で育った子どもが、多いというのが現在の状況だ。
 兄弟姉妹がいないので、兄弟げんかも起こらない。兄弟げんかというのは、人間関係の軋轢、利害の対立から生じるものである。相手を泣かせたり、殴ったりしたら、親から怒られる。この兄弟げんかを経験することで、どのように人と接すればよいのかを小さいころから自然と学ぶのだ。
ところが、一人っ子にはそういう経験が無い。学校に行くと、いきなり人間関係のるつぼに放り込まれることになる。子どもは、人間関係構築のスキルを身につけていない。子どもは、ストレートに要求や欲求をぶつけてくる。こういう人間関係の葛藤の中で、子どもは成長していくのが、昭和までの時代だった。ところが今は、一人っ子で「温室」の中で育った子どもが集団の中で圧倒的に多い。またかつては、いじめをする子どもがいても、年長の子どもが、「そんな卑怯なことをするな」とたしなめる集団が地域にあった。だから、人間関係の拗れも乗り越えることができたのだ。
だが、今はそのような環境が無い。そういう中で人間関係が固定化されると、「学校に行きたくない」と思うだろうし、「それなら行かなくてもよいよ」と言われれば、進んで行かなくなるだろう。少子化と不登校は、密接に関係していると私は考える。
二つ目の要因は、様々な障がいを持つ生徒が増えていることは確かだ。その子どもたちを受け入れ、「共に学び、共に育つ」という環境、すなわち教員の働く環境の整備も含めてどこまでできているのかというと、できていないというのが正直なところだろう。だが、大阪府豊中市などは、義務教育段階からインクルーシブ教育が実践されており、好事例もあるのは事実だ。しかし、ここに35万人という数値の要因を求めることには無理がある。どちらかと言えば、「朝起きられない」という不調の方に要因を求めるべきだろう。これには、小さいころから与えられているスマホが関係しているだろう。スマホによる生活リズムの乱れ、依存症に近い症状になれば、夜更かしによる体調不良、昼夜逆転が起こるのも容易に想像できる。
このように考えると、不登校という社会現象は、現代社会の中で深刻化している問題と密接に関係しており、学校だけの対処で問題解決がなされるものではないし、ましてや教員の関わり方に矮小化すべきではない。だからと言って、不登校解消のために行われている様々な取り組みを否定するものではない。しかし、我々がこの問題をどのように捉えるかは、重要な問題だと考える。

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