ネジバナ


 庭にネジバナが咲いた。ネジバナは、和製の蘭らしい。蘭と言えば、豪華な胡蝶蘭を連想するが、この花は、とても小さいし、愛らしい。慎まやかである。20cmほどにしか伸びない。この花が咲くと、いつもお袋が話をしてくれた。「昔は、田んぼの畦道にいっぱい咲いていたで」と。この花は、移植に弱いらしく、庭から鉢にうつすと失敗するとお袋に教えてもらったので、庭に咲いているのを鑑賞していた。お袋は、和歌山の高野山に近いかつらぎ町の山間で育ったので、植物についても豊富な知識を持っていた。母方の祖父は、山仕事をしていたので、お袋の実家にいくと、家の中に山仕事に使う道具がたくさん置いてあった。子どもにとっては、とても珍しいものであったが、何か威厳と畏怖を感じて触ることはできなかった。

 ネジバナについては、もう一つ思い出がある。親父が庭の手入れをしているときに、草を抜くのだ。それはいいとしても、何の知識も持ち合わせていない親父は、外面だけ気にして何でもかんでも抜いてしまう。当然、芽が出たネジバナも雑草と思って引いてしまうのだ。それでお袋が怒るのだ。「花が咲くから、引いたらあかんって言うてるのに、何でもかんでも引いてしまう」と。親父は、外面を気にする方なので、庭の手入れはまめにしていた。確かに、この季節、雑草は次から次に生えてくる。いくら抜いても生えてくる。なるほど、雑草は強い。と共に、「親父もよくまめに手入れしていたな」と思う。その親父も老人ホームにいるので、ネジバナも引かれることなく、今年はあちこちから顔を出している。去年は、人生の激変で気づかなかったことを思い出した。


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