前回に続いて弁護士によるカスハラ事例検討である。この事例とそして弁護士の見解はなかなか興味深い。というか、学校現場だけでは対応を間違い、よりややこしいことに発展しそうな事例である。事例は、こんな内容だ。
保護者と教員がトラブルになり、その際の教員の対応を、SNSを通じて拡散されてしまいました。支援が必要な生徒に対して、情報共有不足で一部の教員の対応が不十分であったことから子どもが授業に出たくないと訴えたことに対し、謝れと強要されました。担任は謝っている動画を撮影・拡散され、精神的に参っています。
という内容だ。この事例を読んだときの私の感想だ。SNSを通じて謝罪しているところを拡散されたということだが、保護者がSNSを通じて拡散するというところに、極めて強い悪意を感じた。問題の解決のために、SNSを通じて拡散する必要があるのかということだ。より問題を複雑かつ深刻化し、子どもの学習環境を改善し、学校と保護者で協力していこうという姿勢が見られない。即、カスハラではないかと思った。
ところが、弁護士の見解は違う。やはり、法に則して考えるという姿勢は大事であると改めて考えさせられた。もう一度、カスハラに関する条件を提示すると、
①顧客等から就業者に対し、
②その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、
③就業環境を害するもの
である。①の条件はクリアしているが、問題は②及び③だ。この事例について、教員は物理的な拘束を強いられているわけではないと弁護士は言うのである。一方、②の「業務に関して」という点はクリアしている。
教員はSNSの拡散により精神的ダメージを受け、業務効率の低下や場合によっては休職に至ってしまえば、話は別らしい。更に、拡散の仕方が名誉棄損罪や侮蔑罪に該当するものであれば、②の「迷惑行為」にあたる。ところが、虚偽を交えず淡々と事実だけを報じている場合には、正当な表現活動として違法性を問えない場合があり、「著しい迷惑行為」というのは難しいらしい。そして、保護者のSNSの投稿が正当な表現活動であると考えられる場合は、カスハラは成立しないらしい。
何ということだ。SNSで拡散された教員の精神的ダメージは相当なものであるし、学校としても看過できない。悪質なカスタマーハラスメントだと思うのだが、法律に照らし合わせるとこのような結論になってしまうのだ。ここで、学校が「あなたの行為はカスハラだ!」と言ってしまえば、事態は更に悪化し、裁判沙汰になる可能性があり、裁判所が「正当な表現行為」という見解を示せば、学校側敗訴になってしまうのだ。法律の世界と学校現場の差を感じてしまう事例だ。
ただし、カスハラにならなくともSNSで拡散している内容に対して、学校の見解をきちんと伝えることは重要だという。これも私の感想だが、どこまで対抗できるのだろうと思ってしまう。
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