読売新聞が、珍しく教育の話題を記事にしていた。それも読売新聞が独自でアンケートを実施している。全国の小中学校長を対象にアンケートを実施したのだ。対象は、188人で162人が回答しているので、全国を対象としたアンケート調査では決して多くない。せめて、世論調査並みの数を確保すべきだろう。この結果を受けてどこまで母集団を推定できるのかという問題点は残らざるを得ない。ただ、それにしても学校現場の「デジタル教科書」への懸念は、かなり浮き彫りになった調査結果だ。新聞に掲載されているデータを基に、エクセルでグラフ化したのが次のグラフである。
授業以前の問題として、学習環境の問題、児童生徒への健康被害に対する懸念が大きくなっている。学習環境の問題は、政府が予算を投じて十分なデジタル環境を構築すれば解決する問題だし、学習用端末の紛失や破損も予備の端末が潤沢にあれば対応できる。ましてや「教員がICTをうまく活用できない」というのは、あまりにもお粗末すぎる話だろう。確かに、児童生徒が授業に関係ないネットやゲームに集中してしまうことも懸念され、指導にひと手間いることもあるだろうが、それは授業規律という生徒指導の問題だ。デジタル教科書の本質的な問題とは違う。
デジタル教科書の本質的な問題とは、デジタル教科書を活用しても児童生徒の学力向上に結び付かないということだ。海外では、「デジタル教科書先進国」がどんどん「紙への回帰」を行っているのだ。記事でも、ノーベル生理学・医学賞の選考機関でもあるカロリンスカ研究所は2023年4月の声明で
「印刷された教科書や教師の専門知識を通じた知識の習得に再び重点を置くべきだ」
と訴えていると紹介されている。中教審の作業部会では、デジタル教科書の仕様拡大について議論を開始しているが、世界のトレンドは「紙」なのだ。いい加減、議論の方向性を修正すべきだろう。修正せずに、このままデジタル教科書の利用拡大を進めていくのなら、学校現場は益々混乱する。経産省内でもデジタル教科書には功罪があるとして、見直しが必要だととの声があると記事にも紹介されている。
デジタル教科書の議論は、岐路に立っている。引き返すなら今だ。
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