やはり「日本版DBS」はザル制度になりそうだ!

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 9月5日、子ども家庭庁に「日本版DBS」制度の設立に向けた有識者会議の報告書が提出された。やはり、「ザル制度」になりそうだ。報告書を読んでみたら、一番の問題は次の2点である。
(1)各都道府県の条例に違反した者は、対象外になること。
(2)不起訴処分になった者は、対象外になること
である。性犯罪のほとんどが、青少年に関する保護条例に抵触する事案であることを考えると、このまま制度が制定されたら一番大きな「穴」が制度に開くことになる。報告書には次のように書かれている。

エ 条例違反について
性犯罪の中には、各自治体が制定する条例、具体的には迷惑行為防止条例や青少年健全育成条例に定められている罪があるが、このように法律違反に当たらないものについては、これらも前科である以上対象に含めることが望ましいものの、都道府県ごとに制定されるものであり罪となる行為態様や構成要件にばらつきがあること、その改正を国において把握する仕組みがなく、条項の特定が困難であることから、性犯罪を適切に拾い上げて制度の対象とすることには技術的課題があり、更なる検討を要する。

「国において把握する仕組みがなく、条項の特定が困難」であり、「性犯罪を適切に拾い上げて制度の対象とすることには技術的課題」があると記載されている。仕組みがないなら作ればよいし、技術的課題は解決可能である。例えば、この制度を運営する組織が、「〇〇は、■■県の青少年健全育成条例の△条◇項に抵触する行為をした」という情報提供すればよいではないかと思う。要はやる気の問題だ。もう一つの不起訴処分については、次のように書かれている。

実際に性犯罪に及んでいた場合には再び性犯罪に及ぶ可能性があると考えられることから、検察官が行った不起訴処分のうち起訴猶予を理由にしたものも対象に含めるべきとの意見があったものの、本件確認の仕組みが事実上の就業制限という大きな不利益を対象者にもたらすことからすれば、そのような不利益をもたらす根拠とする性加害行為の有無については、正確な事実認定を経たものによって確認すべきであるところ、検察官による不起訴処分は、公平な裁判所の事実認定を経ていない上、処分を受けた者がこれに不服を申し立てることができず事実認定の正確性を担保する制度的保障もないことから、不起訴処分を対象に含めることには慎重であるべきである。

これを読んだら、不起訴処分になった者は、笑いが止まらないだろう。「やった者勝ち」だ。性犯罪は、再犯率が高い犯罪である。だからこそ、網の目はできる限り、小さくすべきである。しかし、これでは、誰のためのDBSかわからない。加害者を守りたいのかと言いたくなる。
 前にも書いたが、改めてもう一度書く。示談が成立して不起訴処分になった場合、加害者はまた子どもの近くで仕事をすることができるのだ。違う職場で同じような罪を犯した場合、示談に応じてしまった被害者は、自分が加害者を野に放ってしまったことに一生苦しむのではないだろうか。私は、示談に応じることを否と言っているのではない。示談のケースがあるなら、示談になったと情報提供すれば良いではないかと考えている。
 条例違反についても、不起訴処分についても、それをもって事業所に採用されなくなってしまうことが問題ならば、情報提供を行うことで採用の可否は、当該の事業所に任せれば良いではないかと思う。
 この報告書の最初には、次のように書かれている。

こどもに対する教育、保育等が提供される場において、教育、保育等を提供する業務に従事する者によるこどもに対する性犯罪・性暴力は、被害に遭ったこどもの心身に生涯にわたって回復し難い有害な影響を及ぼすものであり、あってはならないことである。特に、こどもに対する性犯罪・性暴力は、こどもの性的知識の未熟さやその立場の弱さに乗じて行われ、第三者が被害に気付くきっかけをつかみにくいことから、加害行為が一度発生すると継続する可能性が高いと考えられる。そのため、こどもが教育、保育等の提供を受ける場でこれらを提供する業務に従事する者による性犯罪・性暴力の被害に遭うことがないよう、未然にこれを防止するための仕組み作りが必要である。

 子ども家庭庁には、この基本姿勢を貫き、加害者を擁護する制度ではなく、被害者を守る制度を設計してほしいと思う。イギリスでは、11年前にこの制度が設立された。最初は「ザル」だったらしい。10年を経て今のような網の目が小さい制度になったと聞く。これを受けて、「まずは、制度をスタートすることが大事」という意見がある。私は、これには賛同しない。先行事例であるイギリスは、「『まずはスタート』ではだめだ」という事例なのだ。この事例を活かすためには、できる限り「網の目」を小さくしなければならない。こんな簡単なことをなぜわからないのかと思う。これは、国民の大多数が関係する事象である。自分の家族のみならず、すべての子どもが被害に遭わないために、今、声を大にしなければならない。


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