もし、給特法が無かったら・・・


 8月9日にある判決が下った。大阪府東大阪市の教諭が、大阪府と市を相手取り、損害賠償などを請求した裁判で、大阪地裁の小川裁判長は、男性の負担軽減を講じなかった校長の注意義務違反を認め、府と市に計220万円の支払いを命じたのだ。教諭は、理科の授業や3年生の学年主任、進路指導主事、野球部の顧問などを担当しており、2021年9月下旬ごろ、不眠症状などが出て仕事に集中できなくなり、同11月に適応障害と診断された。その後、約1年1カ月休職したという。判決は、男性の時間外労働は発症直前の1カ月間で136時間、その前月で156時間に上り、精神疾患の公務災害の認定基準を大きく上回っていたと認定。さらに、学習指導要領の改定に伴う対応、修学旅行や保護者会の準備などで負荷が増加したと指摘した。

 ここからが、問題だ。男性教諭は、「授業のコマ数を減らすか進路指導主事から外してほしい」と校長に訴えたが、校長は「代わりはいないので踏ん張ってほしい」と答えるだけだったという。教員以外の人にはわかりづらいので解説するが、通常、学年主任と進路指導主事は兼任しない。両職とも責任は重く、ポスト一つだけでも激務が想定されているからだ。男性教諭の「授業のコマ数を減らすか進路指導主事から外してほしい」は、当然の要求である。進路指導主事の変わりがいなければ、東大阪市教委に要求し、非常勤講師時数を確保し、授業時間の大幅減を措置しなければならない。校長にも学校経営上、様々な理由はあろうと思うが、「1カ月間で136時間、その前月で156時間」などという残業時間は異常であり、早急に対策を講じなければならない。「代わりはいないので踏ん張ってほしい」というのは、あまりにも無責任で、こんな言葉を管理職から言われた男性教諭は、展望も希望も無くすだろうと容易に想像できる。
 なぜ、校長も市教委も待遇改善に熱心でなかったのか。全ての原因とは言えないだろうが、給特法が大きな要因になっていることは否めない。なぜなら、「定額働かせ放題」だからだ。4%の教職調整額が支給されたあとは、何時間残業しようが残業代は出ない。残業している時間は、超勤4項目以外は、教員の自主的労働と判断されるのだ。例えその仕事が、明日の業務に必須の仕事であっても自主的労働と判断され、残業代は出ないのだ!管理職に超勤を減らすインセンティブは働かないし、教育委員会も4%以上の手当てを払わなくて良いのだ。もし、給特法が廃止され、教職調整額が無かったらどうだろう。東大阪市教委は、かなりの額の残業手当を払わなければならない。当然、市教委は校長に対して、「この先生は、なぜこれほど残業が多いのか?」という調査を依頼するだろう。そうすれば、異常に仕事が集中していることも判明するはずであり、教育行政として何らかの対策を迫られていることも認識するはずだ。校長にも業務改善の指示が出されるだろう。給特法があるがために、男性教諭の勤務実態は放置され続けたと言っても過言ではない。働き方改革のインセンティブが十分に働かない典型事例ではないかと思う。

 4%が10%になっても、構造自体は変わらない。同じようなことが、また違う学校で起こるかもしれない。せめて、今回の判例が前例として、教育行政や管理職に対して働き方改革のインセンティブとして機能してほしいものだ。


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