ていのSWOT分析


 9月7日のNHK「べらぼう」は、松平定信の老中首座誕生で、一挙に「文武、文武」と喧しい世の中に変貌する江戸の町が描かれた。田沼一派を追放・粛清し、狂歌・戯作者の太田南畝にまで、圧力をかけるという徹底ぶりである。耕書堂にも世の中の変化が訪れるという回だった。

 見ものだったのは、蔦重とていの夫婦喧嘩。しかしその中身は、定信の政策への評価と今後の耕書堂の有り方を巡る路線対立である。蔦重は定信が死ぬまで働け、遊ぶな、贅沢をするなと言っている。正気の沙汰じゃないと定信の姿勢を批判。一方、ていは、定信は至極まっとうなことを言っていると反論。さらに「派手に遊びまわる方を通だの粋だのともてはやす。そもそも今までの世がとち狂っていた」と言い放って眼鏡を外し、「新しいご老中のお考えは極めてまっとう」と言った。そして、蔦重に「店を守る」ように進言したのだ。まさに見事なSWOT分析である。ていとすれば、やがて定信も触手は、耕書堂にも伸びてくる。その時に蔦重の言うように、御上に逆らうのではなく、店を守るようにしなければいけないと進言したのだ。店を一度潰してしまったていの後悔から出た言葉だろう。

ところで、SWOT分析とは、何か。ご存じの方も多いと思うが、それは下図のである。

この図で言えば、ていは、「弱み×脅威」の路線を取ろうとした。しかし、蔦重は、違う。「強み×脅威」の路線を取ろうとした。それが、定信を持ち上げると見せかけ、その実、こき下ろすという黄表紙本発行である。自らの強みを活かして、脅威を切り抜ける、というか跳ね返す見事なアイデアである。天明8年、1月に朋誠堂喜三二作『文武二道万石通』、恋川春町作『悦贔屓蝦夷押領』、山東京伝作『時代世話二挺鼓』、そして豪華な狂歌絵本『画本虫えらみ』などを蔦重は、発刊するというのだ。蔦重の見事なアイデアである。これには、ていも感服。作者と踊る「へ、へ、へ、」の踊りにていも参加するのだから、おもしろい。あの堅物のていの「へ、踊り」なのだから、たまらない。

 さて次回、定信はどう出るか、蔦重と定信のバトルが楽しみだ!


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