いじめ問題ー揺れる教育現場3⃣「共感力の欠如」


 6月1日の読売新聞「情報偏食」のテーマは、いじめ問題であった。ネット上,SNSを使ってのいじめ問題は、拡大しているとともに深刻度を増している。命に係わるいじめの問題は、いたるところで発生している。記事のなかにも、中学生が動画を切り貼りして、「変な顔」をつなげてネット上に公開した例が示されていた。作成した生徒たちは、ネット上にこのようなコラージュ加工した動画が掲載されていることをみて、「おもしろい」「問題ない」「いじめとは思わなかった」と述べている。このいじめ問題、根は「共感力の欠如」によるところが大きいというのが私の見解である。

 共感力が育っていれば、自分の取った言動が相手にどのような影響を与えるか、想像することができる。だから、どのようにすれば良いか、考えることができる。そして、子どもの集団に共感力が備わっていれば、集団のなかでエスカレートしやすい(「エコーチェンバー」というらしい)いじめ問題も、誰かがブレーキをかける。ところが、今の子ども集団には、この共感力が十分でないために、いじめに対してブレーキをかけた子どもにまでも「攻撃」が行われる。この共感力の欠如はどこから生まれるのだろうか?私は、ここにも「少子化」の影響が出ているのではないかと思う。

 第一に、家庭の中で兄弟がいない状態で育った子どもが多くなっている。親の庇護のもとで、大人の人間関係の中で育った子どもは、自分の要求が認められやすい「過保護」の状況で育つことが多い。そうすると、自分の要求が認められないときに、どのように対処すればよいか、理解することが難しい。このような状況で学校という子ども社会に参加していくと、互いの利害が対立した時に、相手の立場に立ってどのように考えればよいか、獲得しにくい。

 第二に、このような共感力を獲得しにくい子どもが少なからず教室にいると、その集団が力を持ってくる。私が通った学校にもそういう集団はいた。しかし、そのような集団に属する生徒は、決して周囲からリスペクトも受けないし、まずは認められていなかった。そして、この集団は、だんだんと自分たちの取っている言動が周囲から認められていないことに気づき、言動を変えていくようになった。これが正常な集団の教育力だと思う。ところが、どうも正常な集団の教育力が及ばないほどに、この共感力の乏しい集団は大きくなってきているようだ。

 そして、第三に地域の子どもの集団が消えたことである。これも少子化の影響だろう。地域で遊ぶ子どもの声はほとんど聞こえない。私が育った地域では、常に子どもの集団があり、その集団は小学校6年生の子どもをリーダーにした縦社会が自然と出来上がっていた。何をして遊ぶのも小6のリーダーが先頭になっていた。例えば、「缶蹴り」「かくれんぼ」などの遊びするのだが、この遊びの中に「ごまめ」という制度があった。地域によって呼び方は違うと思うが、小さい子(小1や小2の低学年の子ども)への配慮である。じゃんけんをして鬼を決めるとき、小さい子が鬼になってしまうと、なかなか見つけることができない、足も遅いし、体力もない。そうすると、小さい低学年の子は泣きだすのである。だから、じゃんけんで負けても低学年の子を「鬼」にしなかったり、たとえ「鬼」になってもわざと見つかってちいさい「鬼」に「手柄」を与えてあげる。そんな遊びが普通だった。遊びが始まる前に小6のリーダーが「〇〇ちゃんと◆◆ちゃんは、まだ小さいからごまめやで!みんな分かったか!」とルールを決めるのである。これが、弱い子には配慮が必要ということを自然と学ぶ集団の力である。そんな子どもの集団には、いじめがなかった。下の子どもに意地悪をしている子がいれば、小6のリーダーが怒った。私にとっては当たり前の子ども集団だが、どうも今の子どもにとっては当たり前ではないのだろう。

 学校は同学年の子どもでクラス編成される横社会である。同質に近いもの同士が生活する集団では、ちょっとした異質さが、大きな異質さと扱われやすい。しかし、地域の子ども集団は、縦社会である。そこにはめざすべきリーダーがいる。「自分も小6になったら、あんな風にするんだ」ということを自然と学ぶことができる。大阪府でも、この地域の縦社会が生きている地域がある。「だんじり祭り」で有名な泉州地域である。だんじり祭りを行うために、青年団が縦社会の役割を果たしているという。昔、某高校に勤めていた時、泉州地域で教師をしていた同僚からこんなことを聞いた。「大阪市内って地域の縦社会がほぼないやろ。だけど、泉州はまだある。学校で悪いことをして言うことを聞かない奴も、地域の青年団の世話役に事情を話ししたら、きっちり指導してくれる。『なに学校に迷惑かけてんねん!』とね。そうしたら、とたんに指導に従うようになるんや」と。少子化による地域の子ども社会の崩壊がとてつもなく大きな影響をもたらしている。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

PAGE TOP