「虎に翼」新潟編


 朝ドラ「虎に翼」は、舞台を新潟に移した。寅子が裁判官として一人前になるために、桂場が寅子に裁判官としての「修行の場」を与えたのだ。三条支部の支部長として判事として寅子がどんな成長を見せるのか、楽しみにしていた。ところが、テーマはどうもそれではないらしい。戦前から戦後については、寅子が法律家をめざす苦闘が描かれており、初の女性弁護士として「ガラスの壁」にぶち当たり、挫折する姿が描かれていた。よねさんとの確執もここで生まれた。よねさんの言い方は、いつもとてもきつい。だが、よねさんの言わんとするところは、十分に理解できる。闘いの場所に身を置く者としての言葉だろう。
 裁判所に勤務するようになり、家庭裁判所の創設に関わる寅子も、また面白かった。天狗になっていく寅子、子どもや家族との亀裂に悩む寅子、そういう姿は、働く女性にとってみれば、現在でも通じるものがあるのではないかと思い見ていた。
 さて、新潟編である。田舎ゆえの濃厚な人間関係の中で、公平・公正さを貫こうとする寅子の悪戦苦闘が描かれ、裁判官としての成長過程が描かれていくと予想していた。確かに、新潟編の前半は、このようなストーリーだったように思う。と、思いきや、高瀬書記官の問題が勃発。この処分を巡って、地元弁護士との溝を深める寅子が描かれていた。どうなるのかと思っていたら、突然の涼子さんと玉ちゃんの登場だ。昔の仲間の中で、唯一登場していなかったのが、この二人だった。今週、玉ちゃんの思いが語られた。自分のために縛られている涼子さんを自由にしたいという思いを寅子に、そして涼子さんにぶつける。涼子さんは、新憲法で華族という制度から解放され、やっと玉ちゃんと二人で人生を過ごせると語る。このあたりから、新潟編が寅子の裁判官としての成長というテーマから、戦争の傷跡、それも心の傷跡に移ってきた。寅子の娘の優未の姿を見て、号泣する杉田弁護士。その杉田弁護士を優しく抱きしめる星判事。そして、星判事は、心のうちを語ろうとしない。兄の死を受け入れられない高瀬書記官もいた。戦争が終わって、10年近くたっているというのに、人々の心の中には深く戦争の傷跡が残っている。それが、新潟編のテーマなのだろうか。人の死とは、それほど大きい。特に、亡くなる順番が逆になり、子や孫を失った人の気持ちは、いつまでたっても消えないのだろう。
 私も50歳になろうという時に、突然長男の自死という経験をした。私の50歳の誕生日は、長男の葬儀の日だった。あれから14年目を迎えようとしているが、未だに長男が自死した日が近づくと、心が不安定になる。これは私が死ぬまで続くのだろう。私は、神の存在などは信じない現代人だが、死んで長男に会えるならば、あちらの世界も信じようと思うことがある。宗教というのは、こんな悲しみからも生まれたのだろう。人類が考え出した癒しの装置なのかもしれない。


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