「成瀬」はどこへ行く?!

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 今週は、「成瀬あかり」に嵌ってしまった。「成瀬は天下を取りにいく」(本屋大賞受賞)とその続編「成瀬は信じた道をいく」を一気に2.5日で読んだ。この2冊は、「成瀬あかり」の中学2年生から大学1年生までの青春を描いた小説だが、青春という言葉では、うまくあてはまらない「成瀬」の生き方を描いた小説だ。以下、少し「成瀬」について語ってみたい。少しネタバレの内容も含まれるかもしれないので、ネタバレを読みたくない人は、まずは本を買って読んでほしい。

 さて、主人公の成瀬(ここからは、「」をはずす)だが、明らかにギフテッドである。勉強はずば抜けてできるし、何でもすぐにできてしまう。父親の話だと、どうも2歳でひらがなが読めたらしい。滋賀県のトップ校である膳所高校にも、おそらく首席で合格している。教科は何でもできるが、答えが明確な数学が得意で、問題を見た瞬間に解答が浮かぶらしい。京都大学の受験の際も、緊張どころか「どんな問題がでるか、ワクワクする。早く解きたいものだ」と発言。周りにこの発言を聞いた受験生がいたら、引くか、腹を立てるだろうというようなことを平気で言う。京大での勉強で、やっと勉強の面白さを感じることができるようになったようだ。明らかに、ギフテッドだ。
 このような若者にありがちなこととして、コミュニケーション障がいがある。成瀬もその傾向がある。ギフテッドの若者は、相手の発言をその文字の通り受け取り、内容を理解してしまうため、相手の発言の裏にある感情を受け取りにくい。だから、コミュニケーションが円滑に進まないことが少なくない。このことをサポートしてきたのが、幼馴染で同じマンションに住む島崎だ。成瀬も島崎には相当感謝しており、東京と滋賀に離れ離れになっても、漫才コンビ「ゼゼカラ」を続けている。
 もう一つ、成瀬を定義づける言葉として、「サイコパス」ということも当てはまるだろう。サイコパスというと、何か殺人鬼を想起してしまうが、実はそうではない。確かに殺人鬼の中にはサイコパスもいるが、サイコパスと言われる人は、100人に1人の割合でいるのだ。職業としては、弁護士や政治家、社長など、修羅場になってもあまりビビらず、逆にその雰囲気を楽しめる資質を持つ人は、サイコパスと言っても過言ではない。成瀬も舞台に立っても緊張せず、楽しんでいるようだ。

 物語は、ギフテッドでコミュ障で、サイコパス的な成瀬の周りにいる人たちの視線で語られる。一つだけ、主語が成瀬の「ときめき江州音頭」があるが、これは成瀬の内面がわかってとても面白い。何が面白いかは、読んでの楽しみである。ただし、この2冊で成瀬について語られていない(またはほのめかしているが十分に語られていない)ことがある。
 一つは、成瀬の小学校時代である。明らかに変わった小学生である成瀬は、自然と周囲から「浮いた」存在になる。このような子どもは、いじめの対象になるのが通常だ。果たして成瀬はどんな小学校時代を過ごしたのだろう。大貫とのかかわりでいじめが語られる場面があるが、本当はもっと生きづらい小学校時代を過ごしていたのではないかと思ってしまう。
 二つ目は、恋愛だ。成瀬に一目ぼれした広島県の高校生、西浦が成瀬に告白するが、成瀬はつれなく断る。というか、「そんなことに時間を使っているわけにはいかない」というのが成瀬の答えだ。京都大学で学びに熱中する成瀬に刺激を与える学生が登場するかもしれない。
 三つ目は、成瀬の将来だ。島崎が言うように「成瀬は滋賀でおさまる器ではない」のだろう。果たして成瀬はどんな将来を送るのだろう。案外、学者になって、琵琶湖の環境問題なんかを研究テーマに地域貢献をやっているかもしれない。成瀬の地域愛はずば抜けているのだから。成瀬は小学生の北川さんの質問に対して、「何になるかよりも、何をやるかが大事だと私は思う」と答えている。

 今後、成瀬はどこに行くのだろう?三冊目の続編を期待したい。普通でない成瀬に、突拍子もない人生が待っていることだろう。


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