「ノモンハンの夏」(続き)

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 「ノモンハンの夏」で書き残したことがあるので、続きを書く。私たちは、ほとんどの人が戦後生まれの戦後育ちなので、戦前の戦争の結末を知っており、「なんと馬鹿な戦争をやったものだ・・・」という考えを共有していると思う。ところがである。この太平洋戦争に突入する前の「戦前」を描いた「ノモンハンの夏」では、国民は日独伊三国同盟を切望していたと描かれている。また、反英・排英感情も凄まじかった。英国への留学経験をもつ昭和天皇は、もともと反英ではなく、米英の協調路線を望んでいた。当時の平沼内閣も日独伊三国同盟締結には消極的で、積極的に推進しようとしていたのは、陸相だけという状況であった。海軍も米英を敵に回しての勝算には懐疑的で、米英との対立を決定的にしかねないこの三国同盟には、反対の姿勢を示していた。当時の同盟推進派は、陸軍・マスコミ・国民だったという状況だった。三国同盟締結阻止の急先鋒の海軍次官の山本五十六氏へ、命を狙う脅迫文が送りつけられ、護衛さえつけられる始末であった。
 帝国主義気分に踊らされる国民。この流れを昭和天皇も内閣も誰も止める勇気、自らの意思を明確に示す勇気を持たなかった。誰もが優柔不断に終わってしまった結果、日本の選択肢はずるずると狭まり、米英を相手に戦争をするしかない状況に追い込まれた。それにしても、当時の国民の雰囲気というか感情というか、この状況に恐ろしさを感じる。今の我々がこのような状況になっていないか、十分な自己点検が必要だろう。

 現在の世界情勢は、ロシアのウクライナ侵攻以降、3つのブロック化が進んでいる。それは、日欧米を中心とする民主主義・法の支配を強調する陣営、ロシア・中国(それに北朝鮮やイランを加えた)の反米志向をもつ専制主義国家、そしてインドを中心とするこのどちらにも属そうとしないグローバルサウスの国家群である。日欧米も専制主義国家も、グローバルサウスの国々を「我が陣営」に引き込む外交に専心している。これが、現在の世界情勢である。日本国民は、どのような主張を持つべきだろうか?論点は、次の点にあると思う。すなわち、民主主義陣営として、欧米と共にグローバルサウスの陣営をこちら側に寄せる努力を続けていくのか、それとも現在の3つのグループの多様性を認め、「法の下の支配」「力による現状変更を許さない」というスローガンに元に相手の立場を尊重する外交を展開するかである。どうも、日本の新聞の論調は、どちらかと言えば前者に傾いていないか。前者の行き着く先には、益々ブロック化と対立の深刻化が待っているように思うのだが、皆さんはどう思われるだろう。

 確かに日本は民主主義国家である。しかし、日本がかつて帝国主義的侵略を行ったアジアの国々との関係構築に苦労しているように、欧米もかつての植民地であった国々との関係に苦慮している。そして、この元植民地であった国々の多くが、グローバルサウスの国々なのである。このように非常に微妙な欧米とグローバルサウスの関係の中で、果たして日本はどのようなスタンスで関係を構築しようとするのか。そこにこそ日本国民が考えるべき点があると思う。


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