やっと読み終えた。中公新書クラレから出版されている佐藤優氏と手嶋龍一氏が対談形式で語っている「ウクライナ戦争の嘘」である。両氏は、ともにインテリジェンスの世界に身を置き、世界のリーダーが歴史を創る決断をする場面のその場にいた。それゆえに、この二人が、ウクライナ戦争をどのように語るかは、非常に興味があった。読み終えての感想、さすがというしかない。なんとなく、日本のマスコミ報道で腑に落ちないところがあるな…と思っていたところも、ずばりこの二人は指摘している。例えば、日本のマスコミの情報源はアメリカの防衛研究所とイギリスの諜報機関から発表されていることを鵜吞みにしていること、特にイギリスの諜報機関は、情報機関というよりもプロパガンダ機関に変質していることなどが指摘されていた。日頃のニュースを見聞きする中で、このイギリスからの発表は、どうもウクライナに都合の良い情報ばかり出すなと思っていたら、案の定、二人がズバッと切っていた。
この本には
①この戦争は、アメリカがロシアを弱体化させるためにウクライナを負けさせないようにするために、アメリカによる管理された戦争という様相になった。ただし、当初からアメリカは、管理するつもりで支援しているのではなく、支援を継続する中で結果としてそうなってしまった。
②ロシアがウクライナ侵攻に踏み切ったのは、東方諸国が雪崩をうってNATOに加盟したことが背景にあるが、節目は2008年のNATO首脳会議での「ウクライナとジョージアのNATO加盟の支持表明」にある。しかし、そのための保障を何も示さなかった西側諸国の奢りが侵攻を招いた。
③ウクライナという国は、破綻寸前の国家で西部・中部・東部でまるで様相が違う国であり、国家としての運営がなされていない国である。
④プーチンは決して「マッドマン」ではない。ヴァルダイ会議の彼の演説を読むべきだ。(実際読んでみたいと思う。これはエマニュエル・トッド氏も指摘している)
⑤戦略核の使用はしなくても、プーチンは戦術核を使用する可能性は十分にある。中国にとって台湾が核心的利益であるのと同じように、ロシアにとっては、セヴァストポリが核心的利益である。あまりこの事実を日本は知らない。もし、セヴァストポリがウクライナの手に落ちるようなことがあれば、核使用の可能性が高くなる。
⑥ゼレンスキー大統領は、クリミア半島も含めて、全ての領土奪還を主張し、西側もそれを支持しているが、そのことによりロシアとの溝は一層深まっており、停戦交渉に至る壁が高い。戦争を続ける限り、民間人に犠牲が出続け、核使用の脅威が高まる。核が使用されれば、「人類の終わりの始まり」である。まずは、停戦して互いに交渉テーブルに着くべきだ。
⑦交渉のポイントは、ウクライナの「中立化」であり、現にウクライナは中立国である。この事態をベースに交渉できるかどうかだ。
というようなことが書かれている。
ほぼ納得する内容であるが、2点賛同しかねることがある。東方諸国が、NATOに加盟していったのは、2003年にジョージアでバラ革命が起き、2004年にウクライナでオレンジ革命、2005年にキルギスでチューリップ革命(以上を「カラー革命」という)が 起こり、親露政権から親西側政権に代わっている。この点について、西側諸国が奢っているという評価は一定当たっているかもしれない。が、主権国家の選択に対してロシアが脅威に感じていようが、武力による侵攻は絶対的に許されないというメッセージが弱いと思う。実際、2008年にはロシア軍はジョージアに侵攻し、そして今回のウクライナ戦争である。そんな国に対して親しみを感じろというのが土台無理だ。主権国家の選択を踏みにじるロシアという国の愚かさをもっと主張すべきだろう。
2点目は、そのようなロシアという国との停戦交渉で、「即時停戦」が果たして守られるのか、そして「中立化」はできるのかという問題である。外交の裏の裏まで知っているこの二人ならばこその「プロの見解」だろうが、「歴史は時々人智を超えて進む(または戻る)」のである。確かに、核の脅威は増しているだろう。即時停戦も必要だ。しかし、私たちが予想もしない事態が起こるのが、歴史ではないだろうか。できれば、停戦交渉の相手は、プーチンではなく、「自由と民主主義」を理解する人物であってほしいと思う。
ロシア国民よ、本当にプーチンでいいのか!あなたたちの息子や夫は、ウクライナの地で、血を流し、命を失っている。この侵略戦争に意味があるのか。ロシアにもカラー革命が必要ではないのか!逃散してもいい。今のロシアという国は崩壊してほしい。
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