5月19日、日曜日の読売新聞、「明日への考」で、高校入試に関わる中学校の内申書が大きく取り上げられていた。内申書が簡素化されているということだが、なかなか「正解」はないということだ。埼玉県や広島県の例が取り上げられているが、論点はいくつかあるので、ここで整理してみたい。
1.内申書は、各都道府県でその記述内容や取り扱いが異なるという点。
と言うことは、各都道府県が、どのような生徒を育てようとしているのかという根本の問題から入試に大きな影響を与える内申書の在り方を考えなければならないということである。この論点が最も重要ではないかと思う。部活動が地域移行になるから、部活動の記載を削除するとか、内申書目当てに生徒会役員になるなど事例があるとかは、どちらかと言えば、枝葉の議論であるように思う。削除し簡素化されることはよいが、それは問題事象への個別対処であって、根本的な問題とはなっていない。
大阪府は、高校が内申点の割合を選択できる。学力検査の特点:内申点を6:4 5:5 4:6から選択できるのだ。この制度が検討されたときは、9:1から1:9までの選択も議論されたらしい。導入されてから10年ほど経つと思うので、ぼちぼち検証の時期に来ているように思う。私は、高校の自律的な運営、特色化の推進のために、更に選択の幅を広げたらよいと思っている。大阪府では、公立高校の定員割れが大量発生しているので、この検討は急務ではないか。
2.評価のばらつき
次に、問題視されるのが、評価のばらつきである。現在の内申点は、相対評価ではなく絶対評価になっている。そうすると、教師による評価のばらつき、学校間の評価のばらつきが出る。記事でも東京都の例が紹介されている。東京都の公立中学校の校長のコメントとして、「中学校間の学力差や教師による評価の違いは否めず、入試での一律の点数化には無理がある」と述べている。
私が、兵庫県で高校入試を経験した時、入試の成績と内申点の取り扱いは、5:5だった。学力的に低い高校も高い学校も一律で決められていたので、保護者としては内申点に神経をとがらすというのは、よくわかる。地域の進路保障協議会である程度の学校間の調整はなされるようだが、私のいた附属中学校は、地域のこの会合に参加していなかった。というのも、参加すると学校の内申点に箍がはめられるからだ。付属中は、全国学力学習状況調査でも明らかに地域の学校よりも点数が高かった。なのに、内申点で箍をはめられると、不利になるからだ。
私が長年勤めた大阪府では、中学校の格差問題を解消するために、事前に統一テストを実施する。その結果を基に、中学校の内申点の幅を学校ごとに設定するのだ。学力が高い中学校は、内申点の設定も高くなるのだ。エビデンスに基づいた合理的な制度だと思う。導入当初は、中学校を中心に反発も大きかったが、今では反対の声もあまり聞こえない。保護者を中心に納得感があるのだ。
3.主体性の点数化
現在の成績評価は、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう主体性」の3観点を大阪府では同じ割合で評価する方法が採用されている。論点のなるのが、評価が難しい「主体性」だ。この観点が導入されたころは、発言回数や宿題の提出割合など、「?」がつく評価が横行した。京都大学の西岡先生を中心に、はたして「主体性」の評価は必要か、他の2観点の評価に「主体性」評価が含まれるのではないかと言う議論が起こっている。「主体性」評価を含むことにより、「評価のインフレ化」が起こり、果たして実態を反映しているのかということが起こるのだ。私も数値化する評価については、2観点で良いと思っている。
4.入試の多面化
様々な学力を判定するために、入試の多面化も大きな論点である。全国的に導入されることが多いのが「面接」であるが、短い時間でどこまで学力を見抜くことができるかといわれると、難がある。私も総合学科入試で面接を経験したことがある。自己申告書を基に、2つの質問を用意するのだが、質問の設定も中々労力を要する。時たま、マニアックな教師がいて、スタンダードな質問を逸脱するような質問を設定することがあるので、面接官担当の教師が、互いに質問内容を点検しなければならない。平等に同じ質問をするということも考えられるが、それでは受験生への深掘りができないということもある。大阪府では、「自己申告書」なるものを書かせているが、この発想をもっと発展させても良いのではないかと思う。
そこで、記事にも掲載されていたが、大学入試における「総合型選抜入試」を高校入試に導入することは、一つの解決策だろう。エントリーシート、レポート、面接(口頭試験)という多面的多角的な視点からの入試はあって良いだろうと。
5.探究学習の評価
記事に言及がなかったのは、「探究的学び」に関することである。今後の学力の中心になってくるのが、探究的学びである。中学校では、「総合的な学習の時間」の評価に関する事項だ。4の入試の多面化にもかかわることだが、この探究的な学びをどのように評価し、入試に活用するのかというのは、今後の大きな課題ではないだろうか。総合型入試において、小中での探究学習の成果を存分に評価するようなことも考えられる。
とにかく、部活がどうこうとか、生徒会活動がどうこうという個別の問題よりも、その都道府県がどのような生徒を育てようとしているのか、そして、各高校が、どのような生徒を望み(アドミッションポリシー)、どのように育て(カリキュラムポリシー)、そしてどのように巣立たせようとしているのか(デュプロマポリシー)、この一貫した考えのもとに入試制度を考え、内申書のあり方を考えるべきだろう。
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